つながって

つまらないって思ったらさっさとやめなよ。もしかしたらおもしろいことがあるかもしれないなんて思ってやるだけ無駄でしょう。自分がつまらないって思ってるなら自分自身がツマラナイ人間だってことだよ。
とさらさら書かれた23日前のメモ。彼女には辛過ぎるシンクロニシティであった。
畳み掛けるように、『毎日が楽しいハッピー時代は終わりを告げ、ツマラナイ・エラの到来!いち、抜けます!バイバ〜イ!』というメールを受信。だんだん手に力が入りすぎて、思わずケイタイデンワの主電源を切った。世界との絶交は簡単に成されたが実際にはつながっている精神世界。人生そんなもんだった。
所変わってその3時間前、フクシマのノンちゃんはふとんに顔をうずめて「つまらない、つまらない。ああああつまらない」と全身で空気を殴っていたのだが、自分の母親が「ノン、人間死のうと思えば、枕に顔を埋めるだけで死ねるのよ」と言っていたことを思い出す。一人暮らしを初めて一年半、部屋がめちゃくちゃ。洋服は脱ぎっぱなしで、食事を取るのもやめてしまった。ぐしゃぐしゃの髪の毛の中からうるうるの眼光の先には二年前の夏に大学最後の思い出作りに一緒にマウイ島に行った親友リン子との写真。ハイビスカスなどがあしらわれたおそろいのサマードレスに、大きなツバの帽子、どこまでも高い空と…カメラのレンズに反射した灼熱の太陽は申し分無くあの一瞬を切り取った。私たちキラキラしてた。そのあと声をかけられた現地のサーファー青年と青いカクテル越しの熱い夜というのは二人の嘘だったという話は置いておいたとしても、フツーに買い物三昧。これでもかと買い物。それも今となってはいらなくなってしまって、押し入れの中に45リットル袋に押し込めるだけ押し込んで奥の方へ。ふと思い立って、リン子ちゃんに電話、着信音だけでツマラナイがすでに30分前から連鎖するという魔法が起きていた。そのときリン子ちゃんは彼氏と大げんかしていた。喧嘩の内容は、愛犬チチの散歩中に近寄ってくる謎のおっさんの問題で、リン子ちゃんは「あの人は悪い人じゃない、さみしいだけよ、たまにスタバでお茶するだけ」と言っていたが実はおしりを触られているのであった。リン子ちゃんはそれを誰にも言えずに、我慢していたが、その唇を噛み切りそうになる我慢は、あの人はさみしい人だから私が救ってあげなくちゃいけないという絶対の義理に変貌をとげており、そのうちおしりの掴み方にも口出しするようになるほどで、おしりの形がキレイになるように体操を始めるにいたったリン子ちゃんを怪しく思った彼氏がある日チチとの散歩を尾行したところ、二人の濃密な3分間を目撃したという次第であった。おっさんはひとしきりおしりを掴むと、「じゃあ」と行って小路に入って行く。それを頬を赤らめた表情で見送りリン子とチチ。
言い合いは白熱して、彼氏はとうとうリン子ちゃんに手を挙げてしまい、右斜め60度あたりから水平に平手打ちを食らったリン子ちゃんの赤茶色の綺麗な長い髪は、ふーっと空間を切り裂いてそのままテレビの方へ。そこはたこ足配線で何やら数々の電源がごったがえしており、リン子ちゃんの衝撃でホコリが舞い散ったあと数々の線と髪の毛の一本一本が絡まって、鈍い「バチ」という音を出したところ部屋は、停電した。荒い息づかいだけが、暗がりの中で聞こえたが、部屋は二つの階層ではっきりと別れ、下の方は冷たく静かな空間がうごめいていた。
真っ暗な中、自分ひとりしかいない部屋の中でノンちゃんは、やっと見つけたガムテープを持つ手が震えていた。ガムテープで枕と自分をぐるぐる巻きにすれば、きっと、大丈夫だ。いける。
そして彼女はケイタイデンワと家の鍵を近くのコンビニのゴミ箱に捨てて、どっかあっちの方へ歩き出した。人生はそういうものらしい。頭のケーブルさえあれば、私たちはつながっていられるのに。どうしてこうなっちゃったんだろう。誰も教えてくれない。