眠れない夜は羊なんか数えない

正直言って何も書けなくなってしまったのです。書きたい欲求だけがからまわりして、何も言葉が出てこない。それは我慢していたからというのもあるし、言葉を紡ぎ出そうとする行為が自意識から遠く離れていったというのもある。尊厳をどこかに置いてきて、人を傷つけるだけの壊れた、あるいは治りかけの、器官に成りかわったとも言える。言葉によって救われる瞬間、言葉自体に宿る誠実さを、私は捨て去ってしまった気がしてずっと怖かったのだ。
毎日毎日、感情に負けた。生きていくには断片が必要だったのに。ほんの少しの欠片でいいから、それに色をつけたかった、そのための救いとしての言葉だった。どんなに小さな部屋でも、場所でもいいのだ、好きなように泳げれば。部屋全体の、あの低い位置に漂ってる温度。そっと息をしながら、寝ているのか起きているのか、わからないような、そんな空気が、安心で満たされるまで、私は自分の中身がぐちゃぐちゃになっていくのがわかったし、いちいち臓器が引っかかった。血だらけだ。しかしその血は外にはでない。なぜなら中身が血で染まっても、誰にも分かるはずないのだから。
言葉なんて、と忘れたふりをしていたら、つなぎ目にはどんどん亀裂が走っていく。ああ、どんどん進むのだなと思う。たまに忘れる。何があったかも覚えていない。壊れていくところは波のように繰り返して目の前に現れる、もう取り返しはつかないのだけれど。見ていることしか私にはできなかった。
そりゃ爪も割れる。指で触ると当たり前に痛い。