上機嫌で旅がしたい

失われているのは、なんなのだろうかということを考える。
しあわせな空間に、たいせつな人の心に、何かが満たされていくことに、神経が極まっていくのがわかる。感情があふれだすから眉間や目尻にしわが刻み込まれる。奇跡とかいう言葉を連ねる。それでも気づかない間に、ほんのわずか消え去るものがあって、空白感というか結局のところ喪失感なんだ。恐怖かもしれないし不安かもしれないし、もしかしたら面影かもしれないし優しさかもしれない。よくも悪くも身体の中で共存していたすべてのもの、世界と自分との境界線、そういった全部から部品がひとつ消えたような気がする。でもそれは嬉しい事なはずで、喜怒哀楽がいっぺんにやってくることは多分に稀なのだ。果たして、理性には想像力があるのだろうか。物語を紡ぐのは、私の中の、あなたの中の一体なんなんだろうか。

「日常を断片化していっても、自分の身体と感情が八つ切りにされていっては元も子もないでしょう。
だから、私はそれらが、風で飛ばされないように、透明なグルーであなたのかわりにくっつけていってあげようと思います。」

良く眠れるおまじないを手のひらにのせながら、私より背の低いあの子は、上目遣いになった目にたくさんの嬉しさを込めて、そう言った。

みんなそれぞれ何かを失うのが怖い。でも、そんなこと考える時間など、ない。