割れちゃった真っ白と、ジュース

ベッドの下の、絨毯とベッドの隙間の奥底には数匹のキノコがいて、夜になるとにょきにょき顔を出してくる。それが本当に怖い。闇の中で赤緑の光が無数に点滅したらどうしよう。こっちを見ている。だからベッドから手や足をはみ出さないように寝なくてならないと小さい頃は考えていた。足などをベッドから出して寝てしまった日には、にょろにょろと足に巻き付いて取り返しのつかないことになる。そんなことは絶対にあってはならないと、たまに夜中、ベッドから身を乗り出して、絨毯とベッドの下の、隙間の、奥底を監視した。気づくと朝そのままの体勢で目覚めて、青ざめることもあった。知らないうちに、首に巻き付かれて弄ばれていたらと、小さい胸はひっかかるように痛んだ。
小さい頃は、日曜日は誰よりも早く起きてしまった。何時に起きたのかもわからないのだけど、家族3人で住んでいる小さな家は暗く、私は自分ひとりに与えられた部屋のベッドから毛布と共に這い出してリビングに行く。絨毯だったから足音は立たない。途中、父さんと母さんが寝ている寝室のドアを、音を立てないようにノブを回して、中をのぞいてみるんだけど、すぐ横に壁があるから見えなくて、2種類の寝息が聞こえた。たまに足が見えることもあったが、二人の顔を見ようと中まで入る事はなかった。ただ確認するのがおもしろかった。私は毛布にくるまるのが好きで、それは多分、お姫様が好きだったからだろう。そしてやっぱり何かに包まっているのはあたたかくて心地よい。肌に触れる毛布はいつだって柔らかいんだ。

それで私はテレビの前に座ると、棚の中からビデオを出して、不思議の国に迷い込んだ女の子のお話や、人魚姫の女の子のお話、魔女の女の子の話、動物達の国のお話や、二人の女の子の姉妹の冒険の話の映画を小さな音量で観ていた。

たまに夜、目が覚めてしまう事もあった。寝付けないので、音を立てないようにドアをあけて、絨毯をそっと、リビングの手前までいく。絨毯の途中から斜めに明かりが入ってきている。父さんと母さんが音楽を聴きながら二人でソファに座ってしゃべっている気配があるから、安心してそこに寝転がった。でもやっぱり二人の前に現れて寝れないと目をこすって、ソファに座ることはしなかった。ある日夜に目が覚めると、家中が静かで、小さいなりに、家に人がいないことを察知したので、急いで走ってリビングまで行く。どこを探しても父さんも母さんもいなかった。私は家の中で一人で父さんと母さんをたくさん呼んだが静けさだけが反応した。
私は二人を探しにいかなくてはならないと、外に飛び出してしまった。車の修理か何かをしているお兄さんにおでかけかい?と笑われたが、私は半泣きでうろうろした。家の車も見当たらない。何回も駐車場をうろうろしていると、2階の窓から声が聞こえて、首を上へ向けると、涙が鼻のほうまで逆流してきた。
「何してるの?」という声と、「大丈夫?」という二種類の声が聞こえた。私は暗い窓から聞こえる2つの声に向かって父さんと母さんがいないの、と言った。
「きっとでかけてるだけだよ」「そうだよ、そこにいるとあぶないよ」私はまた出てくる涙を押さえきれずに、空気を何度も飲み込んで、また上を向いた。
「うちにおいで」「心配しないで、こっちおいで」
少したって、二人の女の子がお揃いの、小さな花がたくさんプリントされたパジャマを着て迎えにきてくれた。髪の毛の色が栗色で、背がちょっと大きい女の子の方は肩までくるくるの髪を伸ばしていた。二人と手をつないだ。同じ色の絨毯のある家に連れてかれて、そこのお父さんに抱きかかえられた。そこのお母さんは、ジュースをくれて「うちで待ちなさい」と頭を撫でた。「小さい子が駐車場にいるって娘に聞いてびっくりしたのよ」

よく覚えてないのだが、簡単に言うと、あの家はどこかの映画で見た事があるみたいだったな、と今では思う。ジュースの色は透明なピンクとオレンジが混ざったような感じで、女の子達の部屋の窓の前にはベッドがあって、赤い、小さい花柄のカーテンがあった。窓の外には外灯があるから、ぼやけて明るい。まるで映画のワンシーンみたいだ。そこから小さい子がうろうろしてるのを見つけた彼女達はきっとくすくす笑いながら、お互い見つめ合って、それからうなずいて、足をばたばたさせてから、私に声をかけたに違いない。

そのあと、迎えにやってきた父さんと母さんの顔が怒っていて、私は小さいながら「なんでかな」と思った。