13歳くらいの少女

映画ではよく、13歳くらいの少女が、いい年をした大人に対してアドバイスをするというものがあってそれは大抵の場合、というか完全に的を得ているのでものすごくびっくりする。ある映画では恋愛に悩む兄に対して、「魚(女)は海(世界)に死ぬほど泳いでるわよ」などと言ってみたり、不運な結婚をしそうな姉に「後悔してほしくないだけ」と無邪気な顔をして言うのである。ほかには「アイデアなんて思いつくだけなら簡単よ」「結局見た目だってこと」「食べ方が汚い男とはつき合わない方がいいわよ」とか挙げたらキリがないのでやめておく。それで先日私はついに出会ってしまった。私のことを見上げ、サラサラの黒髪をポニーテールにして、眼鏡をかけたあどけない顔の女の子に。少女って、よーく顔を見ると、目がつり上がっていて、完成していないところが好きだ。二重とか一重とか、そういうのはあるんだけど、目と皮膚の境が定まってないのが少女なんだ。あとやっぱり顔も目も鼻も口も小さい。
少女は私も見るなり、「そんな魂の抜けた顔していると、こっちのテンションがすごい下がるんだけど?」と横やりをいれてきた。場所は大通り沿いのDVDレンタル屋さんの店内で、私はその時、持っていたのが、「マイ・ブルーベリー・ナイツ」だったため、少女が言う事には「へえ、結構参ってんの?」ということだった。
ああ、そうかもしれないなあ…と私は言ったのだが、言葉に詰って、なんだか気まずい空気を醸し出してしまったのだが、少女が「まあさ、あんたもうちょっと現実をちゃんと評価したほうがいいよ」と言ったのでびっくりしてしまった。
「確かにさ、あんたが今苦しいのは、何かにもがいているからで、多分うまくいかないことや、漠然とした不安があるんだろうし、周りがどうこう言ったとしてあんた自身が納得してなきゃそりゃしょうがないよね満足してないんだから。でもあんたが満足してようがしてなかろうが、そこじゃないわけあんたの精神が健康でいられるかってのは。周りの人の言葉にも耳をちゃんと傾けてる?大体あんたの現実認識がマイナスすぎるの。別にそれは悪いことじゃないし重要な素養ではる。でも、これ以上、あんたは自分を信じられずに、間違った見解だけ持ち続けると、そうだな、実家に帰って引きこもるか、死んじゃうかどっちかしかないよ、それにあんたが一番大丈夫だよって言ってもらいたい人には一生言ってもらえないんだから早々にあきらめな。別の人がたくさん言ってくれてるでしょ大丈夫だって。大丈夫て魔法の言葉で、なぜだかあんたは安心するみたいだけど、言葉って言っときゃいいんだけど、世の中には言えない人だっているんだからさ」
13歳くらいの少女ってみんなもしかしたら死神なのではないかと思っている。天使の顔をした死神で、そういう気の利いたことを言う少女達は一定数現実世界に送り込まれる。誰よりもすべてお見通しで、何かに捕らわれてぐだぐだ迷っている大人たちを、品定めする。しかし少女たち自身は決断を下さない。まだ死神見習いだからだ。だから少しだけ猶予が与えられる。それで変化があればリストから外されるし、ダメならそのままアウトという仕組みだ。
「今日はダーティー・ハリーにしときなよ」と少女にDVDを渡されて、そうそう、あの最後、ダーティー・ハリーが悪党を追いつめて、お前にはまだ運があるかみたいなこと聞くんだよね、悪党が引き金引いたら、拳銃からは「カチッ」ていう音しかしない。それで、その悪党は川までふっとばされる。